仕事で子どもと関わる人に対して、事業者が性犯罪歴の確認を義務づける新制度「日本版DBS」の創設を盛り込んだ「こども性暴力防止法」が、6月19日に参院本会議で全会一致で可決され、成立しました。
この法律では、性犯罪歴が確認された場合に配置転換などが義務づけられ、就業を一部制限する仕組みが設けられています。施行日は、公布から2年半以内に政令で定められる予定です。
(※2024年6月20日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
性犯罪歴確認の新制度、学校や保育所での義務化と対象範囲の詳細
採用希望者や現職者が確認の対象となります。この義務化が適用されるのは、学校や認可保育所などの施設です。一方、放課後児童クラブ(学童)や学習塾などについては、任意の認定制度となります。希望する事業者が一定の要件を満たせば、国が認定し、性犯罪歴の確認などが義務化される仕組みです。
確認対象となる「特定性犯罪前科」には、不同意わいせつ罪などの刑法犯や痴漢などの自治体条例違反が含まれますが、不起訴事案や行政処分は対象外となります。性犯罪歴を照会できる期間は、拘禁刑(2025年に懲役刑・禁錮刑が一本化される予定)の場合、刑の終了後20年、執行猶予付きの場合は裁判確定日から10年、罰金以下の場合は刑の終了後10年です。
また、「性暴力のおそれがある」と判断された場合も、配置転換などの措置を講じることが義務づけられています。何が「おそれ」に該当するかなどの詳細については、こども家庭庁がガイドラインを策定し、周知する予定です。
保育所や学童の独自対策、制度だけでは防げない現実
「制度だけでは防げない」?独自の対策も求められています。 保育所や学童などでは、新たに成立した法律を歓迎する一方で、「制度だけでは万全ではない」として独自の対策にも力を入れています。
例えば、東京都中央区にある認可保育所「ほっぺるランド東日本橋」では、男性保育士が子どもをトイレに連れて行かないというルールがあります。また、女児の着替えには付き添わないことや、後ろから抱きしめるなど過度な接触を避けるといった細かい規則も設けています。
日本版DBSでは、認可保育所に対して性犯罪歴の確認が義務化されましたが、これだけでは不十分だと考える声もあります。この保育所を運営する「テノ.コーポレーション」(本社・福岡市)の今泉りさ保育運営課長は、新制度を評価しつつも、「疑わしい人物を保育業界に入れないことが理想です」と述べています。
しかし、加害経験があっても示談などで不起訴となり、犯罪歴が記録されない人はこの制度をすり抜けてしまう可能性があります。また、認可外の保育所ではDBSへの参加が任意であるため、必ずしも全ての施設で同じ対策が取られるわけではありません。
今泉課長は、「一定の行為をしたら、子どもと関わる仕事から速やかに引き離すシステムが必要だと考えます。労働者の人権も重要ですが、子どもの人権も同様に尊重されるべきだと思います」と話しています。
学童保育での安全対策、疑わしい行動は報告制度で監視
学童保育では、新制度への参加が任意となっており、国が認定すれば広告などでその表示が可能です。
川崎市に本社を置く東急キッズベースキャンプでは、民間学童や自治体から受託した公設学童を運営しており、職員が順守すべきルールを定めています。そのルールの冒頭には「性的暴力の排除」が掲げられています。さらに、入社時の適性検査や職員間での相互スクリーニング、子どもの声を拾うための目安箱の設置など、さまざまな取り組みを行っています。スクリーニングでは、同僚の行動を観察し、疑わしい点があれば本部に報告する仕組みが整えられています。例えば、「身体接触を好む遊びを頻繁にする傾向がある」など、細かいチェック項目が設定されています。
東急キッズベースキャンプの島根太郎社長は、新制度であるDBSについて「法律の形になったことは大きな一歩です」と評価する一方で、犯罪歴の照会にどれほどの時間がかかるのかが懸念だとしています。「制度には積極的に参加したいと考えていますが、照会に時間がかかると採用面での課題となる可能性があります」と述べています。
スイミングクラブの新制度対応、参加は任意も注視が必要
スイミングクラブにおいても、新制度への参加は任意となっています。一般社団法人日本スイミングクラブ協会の担当者は、「DBSが導入されることで、安心してスイミングを選んでくれる人も増えるでしょう。基本的にはこの制度を歓迎したいと考えています」と述べています。
しかし、実際の運用がどのようになるかまだ見通せないため、協会として各クラブに制度への参加を促す動きは、現時点では予定していないとのことです。「クラブ側にどの程度の負担が発生するのかが不透明です。新制度の運用状況をしっかりと見守っていきたいと考えています」と述べています。