未だに深刻「保育士不足」いつになったら解消されるの?

2024年に国内で出生した日本人の子どもの数が、初めて70万人を下回りました。
「保育園を考える親の会」顧問である普光院(ふこういん)亜紀さんは、日本の保育政策が少子化対策に組み込まれる形で進められ、子どもの権利という重要な視点が置き去りにされてきたと指摘しています。
今、保育の現場から発せられる切実な声に、私たちはどのように向き合うべきなのでしょうか。
(※2025年6月17日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

保育は少子化対策の道具に?見失われた子どもの視点

雑居ビル内に設けられた保育施設や、公園を園庭代わりに使うなど、保育の基準が次々と緩和される一方で、深刻な保育士不足が続いています。
こうした中、子どもの権利に基づいた視点が欠けたまま政策が進められていることが懸念されています。

--著書『不適切保育はなぜ起こるのか』の中で、この30年ほど、保育政策が少子化対策に偏ってきたと指摘されていますね。
→急速に進む少子化に危機感を抱いた国は、保育を出生率回復のための重要な手段のひとつと位置づけました。
とくに、1990年に合計特殊出生率が過去最低を記録した「1.57ショック」以降、仕事と子育ての両立支援が急務となり、保育制度や育児休業制度の整備が進められました。
1992年には育休制度が導入され、1994年には0歳児保育や延長保育の充実を盛り込んだ「エンゼルプラン」が策定されました。

保育の「量」重視か、見落とされた子どもの育ちと環境

共働き家庭の増加も大きな要因と考えられます。
男女平等の意識が浸透する中で、共働きは急速に一般化しましたが、それに伴い保育園の待機児童問題が深刻化しました。
その対応として、保育の基準を緩める施策が次々と実施されましたが、「子どもがどのように育つか」という視点が置き去りにされていたのです。
コストを抑えながら保育施設の「量」を拡充する方針が続いたことで、保育現場には過度な負担がかかり、結果として保育士の不足という深刻な問題を引き起こしました。
--「量」を優先する中で、特に問題となった点はどこでしょうか。
→たとえば、定員を超えて子どもを受け入れることを、最低限の面積基準を満たしていれば可能とした点や、雑居ビルなどの賃貸物件での開設を認めた点が挙げられます。
また、園庭の代わりに近隣の公園を利用することを容認する通知も出されました。
園庭のない保育園では、保育士が毎日子どもたちを公園に連れて行くことで外遊びの機会を確保しています。
しかし、安全を確保するには十分な人数の保育士が同行する必要があり、体調を崩した子どもがいれば園に残る保育士も必要になります。
一方で、園庭があれば空いた時間に自由に外に出られるほか、清潔な砂場や古タイヤ、木材などを使った遊具によって、多様な外遊びが可能となり、保育の自由度も高まります。
東京都心部では、認可保育園で園庭を備えている施設の割合が2~3割にとどまる自治体も目立ちます。
大人向けの商業施設は広く快適につくられている一方で、そのすぐ近くの雑居ビルの中で、子どもたちが狭い空間に集められて保育を受けているという現実があります。
この状況は、社会がこれまで子どもに対してどのような姿勢で向き合ってきたかを、如実に物語っているのではないでしょうか。

保育士の働き方と保育の質、求められる本当の改革

パートで働く保育士が増加傾向にあります。
--現在、必要とされているのは何でしょうか。
→深刻な保育士不足は、保育の質に大きな影響を及ぼしています。
保育士の待遇を改善し、業務負担を軽減することが急務です。
国は2024年度から、4・5歳児のクラスにおける保育士1人あたりの担当人数(配置基準)を見直しました。
これまで量の拡充に偏っていた政策の方向を転換するものであり、高く評価できますが、さらなる改善が求められています。
現在では、保育士自身が子育てと仕事の両立に悩み、妊娠をきっかけに現場を離れた後、常勤勤務ではなくパートとしての復職を希望するケースが増えています。
国はこれまでも、基準上の保育士数にパート職員を含めることを可能とする規制緩和を進めてきました。
さらに、2021年には待機児童がいる自治体において、特別な事情がある場合に限り、クラス担任の全員をパート保育士で構成することを認める措置を講じました。
しかし、保育士が交代で保育を行う状況では、子ども一人ひとりに寄り添ったきめ細やかな対応が難しくなります。
これは、保育士が各子どもの個性や状況を理解したうえで関わることを求める、国の「保育所保育指針」に反するものといえます。

安心して子どもを育てられる社会へ必要な視点とは

--長年にわたり保育政策が少子化対策として進められてきましたが、出生数の減少には歯止めがかかっていません。
→その背景には、「子育てに安心できる環境が整っていない」と感じている若者が多いことがあると思います。
無理をしない働き方でも、家庭や子育てを大切にしながら、安定した暮らしができるという感覚が、今の社会には欠けているのではないでしょうか。
日本は、他の先進国と比べても保育時間が長い傾向にあります。
その一因として、長時間労働が依然として当たり前となっている労働環境が挙げられます。
これまで国も企業も、保育園が親の勤務時間に合わせて対応することを前提としてきました。
しかし、本来見直すべきだったのは保育の現場だけではありません。
親たちの働き方そのものが変わることで、保育園への過度な負担も軽減され、より持続可能で子どもにとっても安心できる保育環境が整うはずです。