埼玉県にお住まいの60代のある男性は、小学生の頃、給食を食べられない時期があったそうです。それは小学1年生、3年生、5年生と断続的に続いたそうです。
もともと食べ物の好き嫌いがあったわけでもなく、食が細いわけでもありませんでした。また、体調が悪いわけでもなかったのですが、スプーンを口に近づけると吐き気を催し、喉を通すことができなかったのです。
その原因については、今でも明確にはわかっていないそうです。
ただ、幼い頃から両親のけんかが絶えない家庭で育ったといいます。
そして、給食が食べられなかった時期は、両親のけんかが激しかった時期とほぼ重なっているようです。
男性の母親は、少し神経質な性格だったようです。
幼少期、母親が何か新しい食べ物を食べさせる際、「大丈夫かな?大丈夫かな?」と声をかけながらスプーンを口元へ運んだことがありました。
そのとき、男性は子どもながらに不安な気持ちになったことを覚えているそうです。
(※2024年11月22日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
子どもの心に寄り添う教育・食育の大切さ
家庭の状況に加え、給食が食べられなかった時期の担任の先生から「○分までに食べ終わりなさい」「おかず、パン、牛乳の順に『三角食べ』をしなさい」などと指示されたことも大きな要因だったと振り返っています。
一方で、給食を普通に食べられた小学2年生、4年生、6年生の時期は、家庭や学校において比較的良い思い出が多かったようです。
男性は「当時の自分は、言葉にすることができなかった精神的な問題が大きく影響していたのではないか」と語ります。
だからこそ、男性は次のように強く思っています。
幼稚園や保育園、さらには小中学校で教育に携わる先生方には、子どもが給食を食べない、食べるのが遅い、吐きそうになるといった行動を目にした際に、安易にその原因を決めつけないでほしいということです。
子どもが家庭や親子関係で何か悩みを抱えていないか、精神的な背景を丁寧に探る姿勢を持ってほしいと願っています。
過去を振り返りながら男性は語ります。
「もし当時、担任の先生から心を落ち着かせてくれるような声かけがあれば、状況は違っていたかもしれない」と。
そして、「先生方には、どうか子どもの心に寄り添った対応をしてほしい」と切実に願っています。
子どもの心と食のつながりを見つめて
「食べること」と子どもの心は、密接に結びついているものです。
埼玉県所沢市で歯科医を務める尾本和彦さん(71歳)は、病気や障害などさまざまな理由で食事に困難を抱える子どもたちを診察し、サポートしてきました。
近年、尾本さんが診た中には、嚥下(えんげ)機能に問題のない健常な子どもであっても、マルトリートメント(不適切な養育)が原因で固形物をのみ込めなくなったり、食事そのものを拒否するようになったりするケースがいくつか見られたそうです。
背景には、親からの厳しい強要や下の子の誕生、さらには転居や離婚といった環境の変化が影響している場合があると言います。
子どもの心の状態が、いかに「食べる」という行為に影響を与えるかを見つめ直すことが求められています。
小さな心の叫びと食事を巡る支え
東海地方に住む4歳の女児は、通っていた幼稚園で、午後0時半までに昼食を完食しないと外遊びができないというルールの中、もともと小食だったことから外遊びをする機会を失う日々が続いていました。
その後、盆休みに親戚が集まった際、女児はアジフライを一口食べて吐きそうになりました。
同じ場で、2歳下の妹や同い年のいとこと比べて食事量が少ないことを指摘された女児は、親から厳しく「もっと食べなさい」と強要されました。
女児はそのとき、「比べないで。食べろ食べろと言わないで」と親に訴えたそうです。
しかし、翌日にはパンケーキとフライドポテトを少し食べただけで、夕食から完全に食事を拒否するようになり、2日後には脱水症状を起こして病院に入院しました。
食べられない理由について女児は「わからない」と話していたといいます。
入院後、栄養状態が改善したことで約1カ月半後に退院しました。
その後、尾本和彦さんの助言を受け、親が毎日抱っこをして安心感を与えたり、妹とおもちゃの取り合いになったときには女児だけを叱らず、同じおもちゃを二つ買い与えるなど、配慮を重ねました。
こうした取り組みを続ける中で、女児は少しずつ食事ができるようになりました。
子どもが食べられなくなる背景の例
両親の話から、以下の要因が4歳の女児が食事を取れなくなった原因ではないかと考えられています。
(1)常に食事量が少ないと親から責められていたこと
(2)妹が生まれたことによる環境の変化
(3)乳児期から母親との身体的接触が少なかった可能性
(4)幼稚園で午後0時半までに昼食を食べ終わるよう強要されていたこと
また、こうした症状は、転居や親の離婚など、生活環境が大きく変わる出来事が引き金となる場合もあるといいます。
子どもの食の問題に向き合うために必要な視点
尾本和彦さんは次のように話します。「精神科では薬で治療しようとし、小児科では不足している栄養をチューブで補うことで解決しようとする例も見受けられます。
しかし、その子どもの普段の生活や親の接し方にも目を向けていただきたいと思います。
医療従事者の中でも、この点についての理解が十分とは言えない状況があります」。
尾本さんはさらに、「子どもの率直な気持ちを引き出し、それを一人の人格としてしっかり受け止めることが重要です。
また、家族全体をケアして安定させることも欠かせません。
加えて、食べられないことを気軽に相談できる場が少ないことも、大きな問題だ」と指摘しています。